2021年10月10日、栄養教諭食育研究会は、岐阜県多治見市の「とうしんまなびの丘“エール”」で「第5回 栄養教諭食育研究大会」を開催し、その模様をオンラインで全国に配信しました。大会では「エビデンスを創出できる栄養教諭を目指して」をテーマとし、代表幹事・金田雅代による開会の挨拶、多治見市長・古川雅典氏によるご来賓の挨拶の後、講演と9県の栄養教諭食育研究会による研究発表等が行われました。本大会における講演と研究発表の概要をご紹介します。
昭和大学医学部小児科学講座 教授
今井孝成
2008年に作成された「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(以下、ガイドライン)は、学校におけるアレルギー疾患への対応方法の基準となっており、2019年には時流に合わせ改訂が実施された。このガイドラインと学校生活管理指導表(以下、指導表)を熟知し、あるべき対応の実現に励んでいただきたい。ここでは食物アレルギーに関連する指導表の主な改訂ポイントを解説する。1つ目は、指導表は医師が作成し、養育者が提出することを明確にしたことである。2つ目は、除去根拠に「未摂取」が加わったこと。3つ目は、学校における食物アレルギー対応は従来「養育者と相談し決定」だったが、端的に「管理必要」と改訂されたことである。4つ目は「原因食物を除去する場合により厳しい除去が必要なもの」という項目の追加であり、調味料等まで除去が必要と医師が判断した場合、学校では給食対応をせずに弁当対応が推奨される。
次に、食物アレルギーの移行期医療支援に関して述べる。学校における食物アレルギーの子どもの移行支援については、年齢や発達などの段階に応じてヘルスリテラシーを高める指導が望まれる。項目としては、疾病理解、除去生活の実践と誤食の予防・実践、適切な食生活の理解と実践、成人になって社会生活を送る際の注意点などである。こうした取り組みは始まったばかりであり、栄養教諭の方々には学校における食物アレルギーの移行支援を切り拓いていっていただきたい。
一般財団法人東京顕微鏡院名誉所長
伊藤武
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策として、マスクや手洗いの励行、アルコール消毒、三密対策、学校閉鎖による学校給食の中止などが行われたことは、2020年の食中毒の発生にも影響を及ぼした。その内容と、今年6月から制度化された学校給食におけるHACCPについて述べたい。
2020年に国内で発生した微生物による食中毒は374件で、前年比61.7%となった。特にノロウイルスとカンピロバクター食中毒が著しく減少した。ノロウイルスはヒトの小腸粘膜に感染し、糞便を介して手指や環境が汚染され、食品を介して人に感染するため、その防止には手指の衛生対策が重要となる。COVID-19では手指の洗浄・消毒とマスクの着用の基本的衛生対策が推進されたため、ノロウイルス食中毒の予防にも相乗効果が発揮されたと考えられる。感染症の基本的衛生管理である手洗いなどは、微生物による食中毒のみならず広範囲な感染症の防疫にも寄与することが明らかとなり、COVID-19終息後も食品従事者は継続した健康管理を推進することが大切である。
また、今年6月から食品衛生法の改正によりHACCPが法制化され、すべての食品事業者はHACCPシステムによる衛生管理を導入しなければならなくなった。もちろん学校給食も例外ではないが、「学校給食衛生管理基準」がすでにHACCPの考え方を導入した手引書である。HACCPシステムで強調されている危害とその分析および加熱等による重要管理点も「基準」に含まれているため、再度「基準」から学んでいただきたい。
福島県栄養教諭食育研究会(発表者:丹有希乃)
本研究は、栄養教諭と学校栄養職員の食育への意識と食育指導計画策定の現状における課題を把握し、栄養教諭の必要性を明らかにすることを目的として実施。調査は福島県内の栄養教諭、学校栄養職員のうち162名を解析対象として分析した。調査の結果、栄養教諭と学校栄養職員を比較すると、栄養教諭のほうがねらいを明確にした献立作成、食に関する指導計画の作成、授業への参加を通して、より積極的に食育の推進を図っている可能性が示唆された。
富山県栄養教諭食育研究会(発表者:西村千里)
本研究の目的は、T県の栄養教諭と学校栄養職員に調査を行い、職務内容の違いを明らかにすることである。調査の結果、栄養教諭と学校栄養職員の職務の実施状況を比較すると、学校給食の管理では、栄養教諭は教育的なねらいを持ち、学校給食を「生きた教材」として活用することを考えて献立を作成していた。食に関する指導においては、栄養教諭と学校栄養職員等では、各種計画の作成への参画や他教職員との連携において違いがあると示唆された。
福井県栄養教諭食育研究会(発表者:越桐由紀子)
福井県は3世代同居世帯率が全国平均より高い傾向にあるが、近年核家族化が進んでおり、共食の機会が減少していると推測される。そのため、本研究では小学生における朝食の摂取状況および朝食内容と、共食との関連について明らかにすることとした。調査の結果、「家族そろって共食」をしている児童は朝食の摂取率も高く、内容も充実していた。このことから、朝食の内容を充実させるには「家族そろって共食」を推進する必要があることが示唆された。
岐阜県栄養教諭食育研究会(発表者:伊藤裕子)
岐阜県では栄養教諭が県学校給食会と連携し、地場産物を使った物資(以下、地産地消物資)の開発に関わってきた。本研究では、地産地消物資活用の実態について検証することとした。その結果、給食会の地産地消物資は、「食育の教材として活用しやすい」「安全性が高い」「献立に取り入れやすい」「取り扱いやすい」といった理由から、一次加工品である「大豆水煮」「切り干し大根」と「米粉」の3品目が多く使用されていたことが明らかとなった。
滋賀県栄養教諭食育研究会(発表者:林美帆子)
これまでの研究では、学校給食の献立において副菜に和え物を提供することが減塩につながることが示されている。そこで、本研究では1食の給食献立の食塩相当量を減らすために、和え物の食塩相当量を減らす方法を探ることとした。その結果、和え物の食塩相当量と食材使用量には相関関係が認められること、また肉加工品を使用した和え物は、加工品を使用しない和え物や魚加工品を使用した和え物よりも食塩相当量が多いことが分かった。
島根県栄養教諭食育研究会(発表者:大石ひとみ)
本研究の目的は、朝食内容の改善に向け、小・中学生の給食における副菜摂取の意識と朝食との関連を明らかにすることである。給食で副菜を食べることを意識している児童生徒は、意識していない者に比べ朝食で副菜を食べることを意識していた。また、給食で副菜を食べることの意識は給食の副菜摂取に、朝食で副菜を食べることの意識は朝食の副菜摂取に関連がみられた。給食時間における副菜摂取意識向上のための継続的な指導が、朝食内容の改善につながる可能性が示唆された。
広島県栄養教諭食育研究会(発表者:三上真由美)
本研究の目的は、広島市のA小学校1年生から5年生までの5年間における個人を特定した調査結果をもとに、生活習慣の変容について明らかにすることである。指導を行うことで、朝食の野菜摂取は低学年で改善がみられたが、排便は改善効果が表れるまでに時間を要した。朝食の野菜摂取のように適切な時期に指導することで改善できる内容や、排便のように繰り返し指導することで改善できる内容などを考慮した計画立案が大切であると考えられる。
香川県栄養教諭食育研究会(発表者:大西卓子)
学校給食のさらなる減塩が求められている中、小学校における給食献立の食塩量の実態を明らかにすることが本研究の目的である。調査の結果、献立種別ごとの1食当たりの食塩相当量は、和食、洋食、中華・韓国、その他のうち、洋食が最も多かった。献立種別で料理区分の塩分寄与率は異なり、和食では汁物、洋食では主食が高かった。料理の組み合わせによる食塩相当量は、すべての献立種別において、汁物があるほうが多いことが明らかになった。
鹿児島県栄養教諭食育研究会(発表者:中西智美)
学級担任が栄養教諭の提供した指導資料を活用し、給食の時間に一定期間継続して児童に噛むことに関する指導を行うことにより、学級担任自身の意識と行動にどのような変容があるかを調査するのが本研究の目的である。指導資料を活用して児童に継続した指導を行うことにより、指導内容からくる知識の増加が学級担任にみられたが、行動変容には至らなかった。20~30歳代の男性教諭においては、噛むことに関する知識数の増加が有意傾向にあった。
神奈川工科大学健康医療科学部 教授
饗場直美
栄養教諭食育研究大会も第5回を迎え、回を重ねるごとにバラエティに富んだ研究発表がなされるようになってきたと実感している。本日の発表においても、減塩など給食の質の問題、給食における地産地消の現状、栄養教諭の職務の実態、児童・生徒の食の実態、給食時における食の指導など、実にさまざまな研究内容が発表された。今回の研究発表なども参考にしながら、栄養教諭の皆さんにはぜひ給食の質を高めるとともに、子どもたちの食行動を変えていくという、食指導の展開までを視野に入れ、日々の職務に携わっていただきたいと願っている。